何が、と言われても答えられない。
どこが、と聴かれても、しらん、としか言いようがない。
でも確かにその日、かすかにだけれど蛙吹の顔は精細さを欠いていた。
俺の目にははっきりと。
あとから派手なことをして失敗したと思わないでもなかったが、
気付いたときには体が動いていたのだから仕方が無かった。
腕の中の蛙吹を、じろっと見つめる。
「ケロ!?」
想ったよりもその体は軽かった。
普段から身軽であるとはいえ、こんなに軽いものだろうか。
そんなことをふと考えながら、驚いている蛙吹へと静かに告げる。
その顔からやはり間違いなどではないのだろうと、確信を持ちながら。
「………蛙吹お前今日体調悪いだろ。保健室行くぞ」
蛙吹はただただ驚いた顔をしている。
「……(……先生なんでわかったのかしら??)」
顔だけで何を思っているのか丸解りだった。
元からとても優秀な生徒ではあるが……。
優秀であるがゆえ、少しの体調不良ならある程度はこなせていたのかもしれないと想った。
―――まったく、とかすかな溜息を零して、抱きかかえる腕に力を入れた。
俺の生徒になったからには、限度をこえての無茶も無理もさせたくはないのだ。
蛙吹を抱きかかえたまま教室を出ると、後ろから女性徒たちの悲鳴が響く。
今度は聞こえてもいいかとため息をこぼす。
「あいつらうるせえな」
「……先生歩けるから自分でいくわ保健室。教室へ戻って」
「ああ?降ろす方がめんどくせえよ。大人しくしてろ」
「……迷惑かけたわね…ごめんなさい」
「そう思うなら今後は先に言っとけ」
「……でも今までは気付かれないから大丈夫だったのよ。この顔と表情だし……
気付かれたのなんかうまれてはじめてだわ。先生どうして気付いたの?」
大きな瞳で見つめられて、息が一瞬とまった。
でもすぐになんでもないような顔をつくろう。
何年プロヒーローやってると思ってんだ。
「……どうしてもなにも、いつもと違う顔してりゃ誰でも気付くだろ」
蛙吹は納得がいかなそうな顔をしていたが、それ以上は何も聴いてこなかった。
正直なところ、こうして空気を読んでくれる蛙吹にはたまにとても感謝している。
内心自分でも、よく気付いたものだと思っていたりするのだから。
***
相梅雨。抱っこ妄想文。