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2016.07.15 相梅雨

ファイル 22-1.jpg

それはほんの出来心だった。
めずらしく解けていた彼のソレ。
誰かに踏まれてはあぶないと手に取るけれど、
彼は目の前の書類に夢中で気付いた様子がない。

そっと、手に取ったままのそれに、唇を押し当てる。

いつから好きになったのか、切欠も今となってはよく解らない。
気付いたときにはもう好きになっていたのだ。
USJでヒーローとして闘う彼をみてから?
危ないところを、助けてもらったから?
きっとそのどれもが正解で、でもそれだけで好きになった訳ではないのだろう。
彼の非情にみせているその奥に、たまに垣間見える情深さや優しさ。
そういうのが見え隠れするたびに、惹かれていった。
もっと、この人をしりたい。
もっと、知らない顔を、見せて欲しい。
もっと、色んなことを、私だけにみせてほしい……。

それはどれも、一生徒と教師の距離では叶わない願い事ばかりだ。
手のひらのそれをみつめる。
これをひっぱれば驚いて、彼はこちらをみてくれるだろう。
そしてひっぱったことを軽く諌めても、私がこんなことをするのはめずらしいから
きっと、どうした?と優しさを隠した瞳で尋ねてくるに違いない。

結局、引っ張りなどしなかった。

「先生、うしろ、あぶないわ」

たったいま口付けたソレを、なんでもない顔で先生の前に差し出した。
気配に気付かなかった先生は、一瞬目を丸くしたあと、ああ悪いサンキュ、と
返事をしてそれを受け取り、ゴソゴソと中に巻き込ませた。

「なんか用事か?」

書類から目を離さずに先生はそう告げる。
此方をみない横顔は、やけに淋しく感じた。
でも一言、先生、と呼べば、きちんと此方を向いて目をあわせてくれるのだ。
そういう、先生なのだ。
決して越えられない距離が彼との間には横たわるけれど、今はソレが唯一の彼との絆だった。
だから、決して壊さないで大事に守りたい。

この恋が叶うかなど解らない。
きっと叶わない可能性のが高いのだろう。
でもきっと私はこのまま先生が好きだし、3年間、静かに確かに、思い続けるだろう。
卒業したら、関係は変わってくれるだろうか。
先生としてじゃない、相澤消太として、私の前に立ってくれるだろうか。

生徒としてじゃない私と。
先生としてじゃない、あなた。

きっと関係が変化するとしたら、その時なのだろうと思う。
だから、まだ、今は。
この片想いを、大事に育てていこうと、そっと胸に誓うのだ。

「蛙吹?」
沈黙を心配に思ったのか、先生はいつのまにか此方をじっとみつめていた。
「なんでもないの。大丈夫よ、先生。ごめんなさい。ぼうっとしてしまっただけ」
ケロケロと答えると、ほっとしたのを隠すように、ああそう、とめんどくさそうな返事。

ふふ。なんだかんだ、やさしい、あなたが好き。
好きよ、先生。
好きなの。
いつか、きっと言うから。

その時はどうか、先生としてではなく、相澤消太として、私の前にたってね。




***
ワンドロお題「片想い」
梅雨ちゃんはそう思い込んでるけど、意外と先生の手がはやかったりしねーーかなーー
とか勝手に思ってます。あと後ろに目くっついてんのか!?て感じだけど、相澤先生これ気付いてて欲しい。
(?なんかしてんな~)くらい気付いてて欲しい。でも別に毒とか塗るわけでもないしまあいいか、みたいな。
もしくは正面に鏡があって反射してみえてた、とか。窓でもいいし。
そんで梅雨ちゃんが居なくなってから、(随分と可愛いことしてんなあ)て思いながら
梅雨ちゃんがキスした箇所へに自分もキスしてほしい。

(pict::相梅雨)