「ったく、ちゃんと連絡いってねえのか……。蛙吹、大丈夫か?」
「……え、ええ。急に目の前に先生が現れるからびっくりしたわ」
「それ、買い物の荷物か」
「ええ、そう。これから晩御飯をつくらなきゃいけないの」
「そうか。持ってやる。かせ」
「別に大丈夫よ、先生。軽いのよこれ」
「いいんだよ。丁度おまえんちに行くところだったんだ。ついでなだけだ、ほら」
有無を言わせない体で、先生の手が私の腕からネギが飛び出ている袋を取り上げる。
「本当にいいのに……」
小さく呟いては見たが、聞き届けられなかった。
手ぶらになった私は隣の先生をチラリと見上げる。
相澤先生とネギはとても不釣合いで、少しおかしかった。
「なんだ?」
くすりと笑みががこぼれたのを目ざとく先生は問いただす。
「先生にネギって似合わないわね」
「まあな。久しぶりにナマモノをみた」
当たり前のようにそんな事を言うからまた少し噴出してしまった。
「ケロ!先生、固形物は全然食べないの?」
「外で食ったりとか付き合い以外は、あんまりたべねえな」
「先生、私、ヒーローが不精するのはどうかと思うわ?」
「不精じゃねえっつの。合理的におれは過ごしてるだけだ」
「ご飯、おいしいのに勿体無いわ」
「そういうのは外で食うからいいんだよ」
「そうかしら。おうちでもおいしいもの食べられたら幸せな気がするけれど」
私がそう見上げると、めずらしく相澤先生は小さく笑っていた。
「……ああ、そうだな。お前はいい家庭に育ってんだな」
そこで会話は途切れてしまった。
私はといえば、めったにみられない相澤先生の笑顔に少しだけ心臓がドキドキしていた。
先生もあんな顔をするのね。もっと笑ったらいいのに。
そんな事を思いつつ、他の誰にも見せないでほしい、などと反対のことを思ってもいた。
「蛙吹、ここか?」
先生のことばかりを考えていたらあっという間に家についてしまった。
「そうよ」
先生から荷物を受け取りながら、頷く。
「ご両親はまだ帰ってないのか?」
「そうね、帰りはもっと遅いの」
「……そうか。最後にして正解だったな。帰るまで待たせて貰いたいんだが、大丈夫か?」
「私は構わないけれど……。先生ずっと外で待っているつもり?」
「ご両親が不在なのに、俺が家に入るのはまずいだろう」
「それは逆よ先生。入れなかったら私が両親に怒られてしまうわ。中で待っていて。先生が嫌じゃないのなら……」
しばらく悩んでいるそぶりだったが、晩御飯作ってる間下の弟妹の面倒をみてもらえると私も助かるの、
と告げてみれば、渋々中へと入ってくれた。
台所で手際よく準備をしている後ろで、先生がしたの子達の面倒をみている。
とても不思議な光景に思えた。
小さい子は苦手そうにみえたけれど、存外子供全般は好きなのかもしれない。
折角だし、先生の分も一緒に作ってしまおう。
多分先生は、出されたものを食べない、という選択をすることはない筈だと思った。
なんだかんだ、本当はとても優しい人だと思うから。
トトトトトトト。規則正しい音が台所に響く。
自分にとっては当たり前すぎて何も思うことはないが、先生には違うらしい。
「器用なもんだな」
「ケロ!!」
「お。驚かせたなら悪かった」
背中の方に先生がたっている気配がするけれど、振り向くことは出来なかった。
褒められて、何故だかとても気恥ずかしかったのだ。顔がきっと赤くなってるわ。
そんな私には気付かずに、何の気はなしに先生が尋ねる。
「随分量多いんだな」
「うちはいつもこんなものよ」
「そうか」
先生はするりと台所から出て行き、待ちくたびれてる下の子達へもう直ぐできそうだぞ、と伝えていた。
嘘よ。本当は先生分多いの。
食べてくれるといいのだけど。
***
自分の前にまで並べられた料理とご飯を眺めて、先生は溜息をついた。
「……蛙吹………」
じろりと睨まれたが、ニコニコしながら、こう続けた。
「ご飯は、みんなで食べなきゃおいしくないわ、先生」
「……生徒の家でご馳走になるわけには行かねぇんだって……」
先生は困ったようにそう告げるけど、構わずに悲しげな顔で私は続けた。
「私が勝手に作ったんだだものね。先生が食べたくないのなら、しかたがないわ……」
「………………わーかったわかった。食うから、な。それでいいだろ」
「ケロケロ!」
私が嬉しそうに笑うと、先生は頭をポリポリとかいた。
それは照れているときの癖だって、私もう知っているのよ、先生。
美味しいって思ってくれるといいのだけれど、と思いながら私も自分のご飯へとお箸を運ぶのだった。
***
家庭訪問が!!!本誌で1!!描かれなかったので!!二次創作し放題ですよ!!!て思いました。